(開催報告)日ウ協会懇談サロン「中東の危機とトルコ、ロシア」

日ウ協会懇談サロン「中東の危機とトルコ、ロシア」 レジュメ

日本ウラジオストク協会・名誉会長/理事 廣瀬 徹也

オスマン帝国の興亡

  1. 多民族イスラーム帝国
    • 三大陸にまたがるオスマン帝国(1299-1922)はスンナ派世界の覇者(16世紀ころよりスルタンはカリフも兼ねたとされる)として君臨。多民族・多宗教共存の体制、キリスト教徒・ユダヤ教徒は「啓典の民」として、教会を中心に自治も許された。
    • 18世紀アラビア半島で初期イスラームに戻れとするワッハーブ派が誕生。→今日のイスラーム主義のなかでも厳格なサラフィー主義につながる。
    • 18世紀以降欧州との力関係は逆転し第一次世界大戦敗戦後帝国は崩壊。
       
  2. 英仏の帝国主義的野望が現在の中東混乱の源
    • 第一次大戦中の英国の三枚舌外交と戦後の英仏によるオスマン帝国領勢力圏分割(「サイクス・ピコ」体制)で、パレスチナ問題が発生、民族・宗派分布を無視した人造国家イラク、シリア、レバノンが成立、クルド人が四か国に分断されるなど現代の中東混迷の種がまかれた。
    • アナトリアではムスタファ・ケマル(アタテュルク)は民衆を結集して国民国家「トルコ共和国」を建国、徹底した脱イスラーム・西洋化によって近代化をはかった。「世俗主義」(徹底した政教分離)を絶対の国是とし、「トルコ・ナショナリズム」を国民統合のイデオロギーとした。→第二次大戦後、議会制民主主義が定着、中東随一の安定勢力 「トルコ・モデル」?
    • クルド問題が内政上最大の課題

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シリアの内戦とイスラーム国

  • 1920年仏委任統治領となったシリアでは、住民の74%がスンナ派であったにもかかわらず、仏当局はシーア派の分派といわれるドルーズ派とアラウィ派を軍に重用した伝統が1971年から今日に至る、アラウィ派出身のアサド家二代にわたる実質的独裁体制を生み、現在の内戦の源となった。
  1. 内戦の発端・長期化と「イスラーム国」の出現
    • 2010年暮れに始まった「アラブの春」の中で、シリアでも2011年3月中旬以降、各地で反政府デモが発生し、政府側の過剰な弾圧から内戦に発展。
    • 国際社会も当初よりアサド政権支持派(イラン、ロシア)と反体制派支持派(米欧、トルコ サウジアラビア カタールなど)に分かれ、“代理戦争”の様相。「イスラーム国」が加わり三つ巴の戦い。
    •  イスラーム国(IS):ダーイッシュ、ISIS,ISILともよばれる、母体の起源はアル・カーイダと同根(ともにジハード主義集団)。2004年イラクで活動開始、2014年アル・カーイダと決別、同年6月 指導者アブー・バクル・バグダディーは自称「カリフ」を名乗り、国家樹立を宣言した自称「カリフ」の下で現実の領域国家樹立をめざして(この点がアル・カーイダと異なる)イラク、シリア北部を中心に活動。
    • 構成員の正確な数字は不明なるも、2万人以上 イラクの旧サダム・フセイン政権の軍人のほか、多くの外国人(80か国から15000人と言われる)が戦闘員として参加していること、インターネットなどソシアルネットワークの巧みな利用が特徴。 財源は支配した油田の石油の密輸、誘拐身代金、支配下の住民からの徴税、文化遺品の密売等。

      (アサド政権側)
    • アサド政権側は圧倒的な戦力をもつ。国軍兵力17万8,000人、予備役兵 31万4,000人(ミリタリーバランス 2013年)に加えて、シーア派民兵、イランの革命防衛隊、イランが支えるレバノンのシーア派武装組織「ヒズブラ」。
    • シーア派の盟主を自認するイランは、シーア派60%のイラクおよびアラウイー派が実権を持つシリアを結ぶシーア派トライアングルを作り勢力の拡大を図っていた。
    • ロシアにとっては、アサド政権のシリアは冷戦終結後中東で残された唯一の同盟国で、かつ、旧ソ連諸国以外で唯一の海外軍事基地が存在しているため、中東でのプレゼンス維持には不可欠の存在。武器供与など支援してきた。

      (反体制側)
    • 世俗勢力たる「自由シリア軍」、スンナ派武装勢力、アル・カーイダ系の「ヌスラ戦線」などジハード主義組織が群雄割拠の状態で,かつ武装勢力同士の衝突も頻発、離合集散を繰り返し、収拾がつかない状況。
    • 欧米・トルコ等が期待した「自由シリア軍」など民主勢力育たず、ジハード主義者たちが主導。「イスラーム国」宣言後は米国はシリア民主化よりも「イスラーム国」との戦いに注力。
    • 米国が主導する「有志連合」の空爆も対象は「イスラーム国」でアサド政府軍ではない。有志連合はこれまでシリアに地上戦闘部隊は派遣しておらず(リーダーの米国オバマ政権が自国の戦闘部隊派遣に否定的)、「イスラーム国」との地上戦はクルド系人民防衛部隊(YPG)や反体制派に委ねている。

       
  2. 西アジア発危機のグローバル化
    • 2015年 難民急増し欧州へ流入、大規模テロ頻発、ロシアの大規模軍事介入で西アジア発危機がグローバル化した。
      11月13日パリ同時多発テロを契機として、仏、米 ロシアを軸としてテロとの戦いに共闘の機運が高まったが、11月末トルコ軍機のロシア軍機撃墜で、国際協調は亀裂した。
    • 「イスラーム国」は支配地減少。アサド政権は2016年に入り挽回。

      プーチンの思惑
    • ロシアの軍事介入のうらには、「強い大統領」の誇示、国内テロ対策 ウクライナ問題の有利な解決、クリミア併合の既成事実化のねらいも。
    • 弱みは 原油価格の低迷による財政悪化下での戦費負担。
    • 原油価格維持のため 増産抑制ではサウジアラビアなどOPEC諸国とも合意

      (呉越同舟)
      トルコのジレンマ
    • 2015年、7月20日、南 東部のスルチで「イスラーム国」によるとみられる大規模テロが発生したのをきっかけに、「有志連合」の空爆に参加したが、国内の武装組織のテロ活発化で、トルコ政府は両面作戦をとらざるを得なくなった。米露とも支持するクルド系人民防衛部隊(YPG)については トルコはYPGがPKKの兄弟組織として敵対。
    • 難民問題でトルコの重要性増し、トルコはEUと資金援助や懸案のEU加盟交渉加速の約束取り付けるも、すでに250万人以上受け入れており、限界。

      サウジアラビア等とイランの断交も懸念材料
    • サウジアラビア等のシリアへの地上軍派遣示唆はブラフとしても要注意。
       
  3. 和平への努力
    • 2015年末の安保理決議採択を受けて、2016年1月末国連主導の和平協議開始されるも、シリア政府の攻撃続行でいったん中断。2016年2月11日関係17カ国は、「1週間以内の停戦」を呼びかけることで合意。米国とロシアが提案したシリア内戦の一時停戦が27日午前0時に発効した。停戦案では「イスラーム国」「ヌスラ戦線」などの過激派組織は対象外で先行き不透明。

人道支援も喫緊の課題

  • シリアではすでに死者25万人、陸路ないし密航船で国外に逃れた難民400万人、国内避難民は約760万人にのぼる。農地の荒廃で食糧生産も減少している最近では飢餓も生じている。
  • 増加する難民への対処と人道支援も喫緊の課題である。
  • 2016年2月4日「シリア危機に関する支援会合」開催、各国から総額100億ドルのプレッジ。日本の役割りへの期待も大きい。

 

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